はじめに
ひと口にペルシャ絨毯と言っても、この手織りの敷物は実に多種多様です。ペルシャ絨毯に興味を持ち始められたお客様から、「いろいろな商品やお値段があって、どこでどうやって選ぶのが良いのか判らない。」というお話を聞きます。
ここでは、ペルシャ絨毯についての基本的な知識をご紹介いたします。ペルシャ絨毯の世界は大変奥が深いものです。このページをきっかけに更にペルシャ絨毯に関心を持っていただければ、ますますいろいろな絨緞が魅力的に見えてくると思います。
結び目の細かさ
最初にほとんどのお客様がノット数など、織目の細かさを比較するようです。手織りの絨緞は一目一目パイルの糸を結んでいるわけですから、結び目が多いほどパイルが密になり丈夫に、柄も細かくなります。デジタルカメラの画素数と同じで、細かいと美しい繊細なデザインを細部まで表現できます。ノット数が多くしっかり織り詰められた絨毯は、踏んだ時の沈み具合も違います。(大げさですが、一拍おいて体重に反応するような感じ。)また、繊細なデザインのイスファハンですが我が家の場合、4匹の猫が爪とぎしてもびくともしません。高品質のペルシャ絨毯が100年使えると言われる所以です。
織目の細かさだけではなく、織り手の技術によっても、仕上がった絨毯の美しさに差が出ます。ゆがみが出ないように、結び目の大きさを均一に細かに織りあげることは熟練を要する作業です。その点で、でき上がった絨毯の目の細かさ美しさはそのじゅうたんの価値を決める判断材料の一つと言えるでしょう。
一般にペルシャ絨毯は「ノット」や「ラージ」の単位で結びの細かさを表します。ノット:1m2に対し幾つの結び目があるかということで、ノット/平方メートル(kpsm=knots per square metre) の略です。一般に1cm2の中の縦×横の結び目を数えて概数を出します。例えば、1cm2に縦10目×横10目であれば10目×10目=100目、100目×100cm×100cm=100万ノット/平方メートルと表します。ラージ:タブリーズなどは比較的ラージの単位が使われます。これは、約7cmの間に何目並んでいるかという表現です。一般に横方向にだけ数えます。 50ラージは約7cmの中に50目ほどの細かさということです。一般に40ラージ以下は実用向け、50ラージ以上となるとかなり良いものというイメージが定着しています。
また主要産地の一つであるナインでは、主に、「シシラ(6laa)」或は「6本」と呼ばれ比較的織りの細かいグレードの物と、「ノーラ(9laa)」或は「9本」と呼ばれる比較的織りの粗い2つのグレードの物が多く作られます。このグレードの呼び方はナインの独特の表し方で、経糸に使う木綿の撚り糸の数を表します。撚り糸の数が少ないほうが一本の糸として細い糸ということになり、これを経糸に使えばより密度を高めた表現が出来るという訳です。ほとんど見ることはありませんが、「チャハラ(4laa)」、「4本」と呼ばれる大変細い経糸を用いた、実用品と言うよりは美術工芸品的な、精密な織りの絨毯もあります。実用品としては、およそ40ラージから80ラージに相当するシシラ、ノーラが多く、生産・流通しています。
余談ですが、中国緞通は才という単位を用います。 1才=約30cmの中に何目あるかといことで90段、120段と表現します。 120段は1cmに4目、最高級のシルクでも150段ですと1cmに5目。ペルシャ絨毯のクムシルクの高品質のものは100万ノット。1cmに10目です。また、中国緞通は基本的に同じデザインの大量生産方式です。ペルシャ絨毯はほとんどのものがオリジナルデザインです。似たようなデザインであっても色を変えているなどの工夫がされているものが主流です。
染 め
絨毯のパイル糸は、染めて色素を持たせた物と、染めずに生成りのままで使うものがあります。 染色の理由は様々ですが、染色する事によって色素が繊維に結びつき、保護の役割りもします。インヂゴなど、染料の種類によっては防虫効果も期待できます。しかし、何より重要なのは、絨毯に美しさ面白さの表現を与えていることです。
現在のペルシャ絨毯のパイル糸の染色には、草木染めなどの天然染料と化学染料の両方が使われています。 19世紀後半からイランでも徐々に化学染料が広まり、今では天然染料の割合は少なくなっています。
それぞれの染料の特色は、
化学染料の場合、比較的コストが安価です、比較的均一に染まり易く安定した色糸を供給できる。不便な点として、繊細な色の表現が難しい、色の褪せ方が必ずしも美しくない、また一部の化学染料の場合簡単に褪せてしまうことがある、など。
一方天然染料の場合、現代に於いては手間と時間が掛かりコストが大きくなってしまう、天候などに左右され易く、染色職人の経験、勘に依り色にばらつきが出る、などの弱点があります。良い点は、色素が純粋でなく、多種の色素で構成されている為、色合いに独特の深味が出て、重ね染めや褪色の際にも豊な色の変化が期待できます。染色の理由からしてもこれはとても重要な事です。
また気持ちの問題ですが、天然の素材には優しさを感じ安心感を持つ事が出来ます。
シルクもウールも天然繊維ですから、時を経るとゆっくり色が飴色に変化していきます。全体に良質の素材と草木染が使われている場合、染料の変褪色と相まって新しい物では表現できない見事な風合いが顕われます。生成りの部分は深いベージュに、茜の鮮やかな赤も深みを加えた赤に...。そのようなペルシャ絨毯には時代を経た物だけがもつ価値が加わります。
化学染料と天然染料の混合の場合、特に新興の産地では歳月を経た後の色合いの移行についての経験の蓄積が少ないため、色のバランスが崩れてしまう事もあるようです。これでは時間が経ってもよい風合いの絨毯にはなりません。そのため各産地ではそれぞれ研究、工夫がされているようです。工房によっては全てを天然染料に戻すなどの転換を計っているところもあります。
また、特にシルクに関して、ザンジャン、マラゲ等の産地で安く作られたものがクムシルクと称して出回っています。すべてではありませんが、中には安く仕上げるため、染めなどの工程の一部が省かれたものもあり、数年使用しているうちに色がにじんだり、早く褪せてしまうものもあります。染めとは別の話しですが、シルクの質も高級品とは違います。良質のペルシャ絨毯は洗いやメンテナンスをして長く使えるものですが、このような品質の落ちる商品は安価な分、実用向け、使い捨てとお考えになった方が良いかもしれません。(最近では経験の蓄積と市場の要求によって多少品質をあげて来ている産地もあります。判断を迷わせる元でもありますが、あえて付け加えます。)
素 材
ペルシャ絨緞は、基本となる縦糸・横糸と毛足となるパイル部分の糸から成ります。クムシルクなどはこれらに全てシルクが使われます。シルクの品質はそれぞれの絨緞によって実に多様です。高品質なものは、上質の大変柔らかな手触りの絹糸です。お手ごろなものは、硬い感じのシルクが使われているようです。ウールカーペットの場合、縦糸・横糸が綿の場合が多いのですが、主要産地の一つであるイスファハンでは縦糸にシルクが使われています。またイスファハンや高品質のウールカーペットには、コルクウール<Kurk Wool>と呼ばれる仔羊だけの柔らかな羊毛が使われていて、細やかで繊細なデザインが展開されています。その結びの細かさにシルクと間違われるお客様もいらっしゃいます。高級ウールカーペットは柄糸の一部にシルクが使われることが多くあります。シルクは光沢があるので、光の加減で柄の一部が浮き上がって見えます。華やかなデザインがより神秘的に感じられます。また、部族物など一般のウールカーペットにおいても、イランの羊は原種に近く最も絨毯に適していると言われています。しっとりと軟らかくても弾力があり、使い込むほどに光沢が出てきます。
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